古典的な粉飾決算 循環取引とは何か

本を出版している著者が、
粉飾決算である循環取引について、やさしく解説します。

会計講座【番外編】として、中小企業研修協会が行ってきた講座を抜粋公開します。
各講座が独立した内容になっています。
気軽に読み物として、楽しんでください。

この記事では、初心者でも粉飾決算の循環取引について、よくわかるようにやさしく解説していきます。

この記事でわかること

  • 古典的な粉飾決算である循環取引がわかります
  • 粉飾決算のしくみがわかります。

それでは、粉飾決算の循環取引について解説していきます。

古典的な粉飾決算である循環取引とは何か

古典的な粉飾決算である「循環取引」を紹介します。
循環取引とは、関係取引先を巻き込んだ厄介な粉飾決算です。

それでは、ざっくりと、みていきましょう。

A社は、売上の低迷に苦しんでおり、慢性的な資金不足に陥っています。
決算は、残念ながら、赤字になる見込みです。

このため、銀行からの融資を受けることが困難な状況です。
銀行は、業績の悪い会社に融資をしたがらないからです。
会社の経営は、苦境に陥っています。

A社の損益計算書は、つぎのとおりです。

 

                    A社の損益計算書       (単位:万円)

費用 収益
仕入                   4,000 売上        5,000
諸費用                 2,000 損失        1,000

 A社は、売上原価の圧迫と人件費などの諸費用の負担増で、1,000円の赤字です。

経営が悪化する中、A社の社長は、古くからの友人であるB社の社長に架空取引の協力を持ちかけました。
架空取引とは、実際の取引が存在しない見せかけの取引のことです。

 A社は、B社との間につぎのような架空取引を計上しました。

 売掛金      2,000 売上      2,000

 架空取引後のA社の損益計算書は、つぎのとおりになります。

                             A社の損益計算書     (単位:万円)

資産 負債及び純資産
仕入                   4,000 売上        7,000
諸費用                 2,000
利益                   1,000

架空取引によって、赤字から一転して黒字決算になります。

さて、この程度の架空取引ならば、すぐに利益操作が露呈します。
しかし、さらにⅭ社が加わった場合は、どうでしょうか?

 B社が、Ⅽ社との間につぎのような架空取引を計上しました。

 

 売掛金      2,100 売上      2,100

 そして、ここからが、「循環取引」のポイントになります。

 さらに、Ⅽ社が、A社に以下のような架空取引を計上します。

 

 売掛金      2,200 売上      2,200

             

  

この循環取引のスキームから、架空取引が三社間で循環していることがわかると思います。

ところで、A社(首謀者)は、2,000円で、B社に売った架空取引を結果的にⅭ社から2,200円で仕入れることになります。つまり、トータルで200円の赤字である架空取引になっていることがわかります。

A社にとって、無意味に思える循環取引のスキームです。
しかし、現実のビジネス現場では、非常に意味のある取引になります。

 まず、A社は、B社への決算前の架空売上によって、赤字決算から黒字決算に粉飾できます。売上の水増しができるわけです。黒字決算であれば、銀行からの融資も受けやすくなり、また、株主からの経営責任の追及も回避できます。

 そして、もう一つは、B社に架空取引2,000円の水増し売上を計上することで、B社から代金である受取手形を得られることです。A社は、その受取手形を割り引き、現金を手にいれることができます。

それでも、A社は、結果的に200円の赤字ではないか?という指摘がありそうです。

つまり、2,000円の受取手形をB社から得られても、のちにⅭ社に2,200円の支払手形を支払っては、まったく、架空取引の意味がない、というわけです。

しかし、資金繰りに追い詰められた会社にとって、それは「借金の利息」支払いにすぎないわけです。

少々割高と思われる利息の支払いでも、会社が倒産した場合の悲惨さを考えれば、むしろ格安の利息というわけです。

私自身も実務で何度も経験しています。
銀行への融資手続きは、非常に煩雑で、骨の折れる作業です。
決算書や試算表の提出はもちろん、売上計画表などの提出も求められます。
不謹慎ですが、循環取引のスキームで、このような煩雑な手続きなしに資金を得ることができるわけです。

 循環取引は、水増し売上と資金の不足の解消という一挙両得の粉飾決算なのです。

  

 当然ながら架空取引は、詐欺行為です。証憑類の裏付けなども必要で、複雑です。
 しかしながら、現実のビジネスでは、架空取引による粉飾決算があとをたちません。

粉飾決算や資本金に関する記事をまとめました。
こちらの記事をご覧ください。
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古典的な粉飾決算 循環取引のまとめ

  • 循環取引とは、3社間でおこなわれる架空取引による粉飾決算である
  • 循環取引による粉飾決算は、約束手形の融通が多い