古典的な粉飾決算 在庫商品と利益操作
本を出版している著者が、
在庫商品を使った利益操作による粉飾決算について解説します
会計講座【番外編】として、中小企業研修協会が行ってきた講座を抜粋公開します。
各講座が独立した内容になっています。
気軽に読み物として、楽しんでください。
この記事では、初心者でも粉飾決算について、よくわかるようにやさしく解説していきます。
この記事でわかること
- 古典的な粉飾決算がわかります
- 粉飾決算のしくみがわかります。
伊達敦が、粉飾決算について、わかりやすく解説します。
・商社勤務20年の実務家です
・出版した決算書関連のビジネス書は、海外でも翻訳されています
・主な著書「まだ若手社員といわれているうちに知っておきたい会社の数字」
講談社刊
・中小企業研修協会&中小企業コンサルティング事務所代表
それでは、粉飾決算について解説していきま
古典的な粉飾決算とは?!
これまで、莫大な売上高と巨額の利益を稼いできた有名企業が、突然、倒産し世間を驚かすことがあります。
そして、その後、不明朗な粉飾決算が明るみになることが少なくありません。
- 粉飾決算とは何か?
これから、古典的な粉飾決算を紹介します。
逆説的ですが、粉飾決算をしくみ知ることで、会計の問題点と本質に迫ることができると考えるからです。
最初に紹介する典型的な粉飾決算は、在庫商品による利益操作です。
まずは、損益計算書に記載されている「売上」と「仕入」について、みていきましょう。
取引を時系列的にみていきましょう。
A社は、ボールペンの販売店です。
4/1 ボールペン100本を仕入単価80円で、総額8,000円を仕入れた。
仕 入 8,000 | 現 金 8,000 |
4/15 ボールペン30本を売上単価100円で、総額3,000円を売上げた。
現 金 3,000 | 売 上 3,000 |
このときのざっくりした損益計算書は、つぎのとおりです。
A社 損益計算書 (単位:万円)
費用 | 収益 |
仕入 2,400 | 売上 3,000 |
利益 600 |
仕入れたボールペンは、総額8,000円でした。
しかし、損益計算書には、仕入2,400円と記載されています。
これは、どういうことしょうか?
くわしく見ていきましょう。
これは、4月1日にボールペン100本を仕入単価80円で仕入れた8,000円とは明らかに異なる金額になっています。
その理由は、損益計算書に記載されている「仕入」とは「売上原価」のことたからです。
売上原価とは、売り上げた商品の原価でのことです。
さらにくわしく見ていきましょう。
仕入れたボールペンを「売上」分とまだ売れていない「在庫」分とに整理します。
仕入の明細表は、以下のようになります。
項目 | 数量 | 仕入単価 | 金額 |
売上ボールペン | 30 | 80 | 2,400 |
在庫ボールペン | 70 | 80 | 5,600 |
仕入ボールペン合計 | 100 | 80 | 8,000 |
売れたボールペン30本と在庫ボールペン70本の合計が、100本になります。
仕入れたボールペン総数100本と一致していることがわかります。
そして、損益計算書に記載されている金額は、売れたボールペンのである30本×仕入単価80円の仕入金額2,400円になります。
費用収益対応の原則とは何か
会計の理論の一つに「費用収益対応の原則」があります。
ざっくり説明します。
売上と仕入を適正に比較させることで、適正な利益を計算するという考え方です。
この「費用収益対応の原則」に基づき、損益計算書は作成されます。
損益計算書の「仕入」というのは、仕入金額がそのまま記載されているわけではありません。
「売上高に適正に比較対応された仕入金額」が記載されています。
すなわち、「売上原価」が記載されているのです。
在庫商品で、利益が変わる!
さて、ここであらためて粉飾決算の話に戻します。
在庫商品が、古典的な「粉飾決算の手段」になりやすいという話です。
あたらめて、売上原価は、どのように計算されるでしょうか?
売上原価の計算式は、つぎのとおりです。
- 仕入-在庫商品=売上原価
売上原価は、在庫商品をしっかり把握しなければ、計算できません。
先のボールペンの例でいえば、つぎのとおりになります。
仕入 在庫商品 売上原価
8,000円 - 5,600円 = 2,400円
このように売上原価を計算するためには、在庫商品をしっかりと把握しなければならないことがわかります。
ところで、前述のボールペンの例で、在庫商品の金額が、6,000円だった場合、売上原価はいくらになるでしょうか?
計算式に当てはめてみましょう。
8,000円―6,000円=2,000円
売上原価は、2,000円となります。
在庫商品の変動は、売上原価と利益に影響します。
在庫商品の金額が、5,600円から6,000円に変われば、利益は以下のように変化します。
損益計算書 (単位:万円)
資産 | 負債及び純資産 |
仕入 2,400 | 売上 3,000 |
利益 600 |
損益計算書 (単位:万円)
資産 | 負債及び純資産 |
仕入 2,000 | 売上 3,000 |
利益 1,000 |
利益が、600円から1.000円へと大きくなったことがわかると思います。
すなわち、在庫商品を意図的に操作することで、利益を過大に計上することができるのです。
なぜ、会社は、利益を過大に計上するのでしょうか?
その大きな理由の一つに、銀行から融資を得るためということが考えられます。
銀行は、売り上げが伸びず、赤字の会社に融資はしません。融資した資金が回収できないからです。
このため、会社は銀行から融資を得るために意図的に利益を水増しすることがあります。
銀行は、赤字で資金不足で苦しむ会社からは、資金を引き揚げ、順調に利益を稼いでいる会社に積極的に融資をします。
銀行は、「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」という所以です。
さらにもう一つの大きな理由は、経営者の責任逃避があります。
経営者は、事業計画通りに売り上げがあげられず、業績が低迷し赤字が続けば、株主から経営責任を追及されます。
また、社員たちからの信頼も失うことになります。
このため、経営者は、売り上げが、順調に見せかける粉飾決算に手を染めてしまうのです。
古典的な粉飾決算を考える
- 古典的な粉飾決算の代表は、在庫商品による利益操作
- 在庫商品の数字で、利益が大きく変わる