3分でわかる!貸倒引当金をやさしく解説します

決算書である貸借対照表に記載される貸倒引当金について
商社勤務の実務家が、やさしく解説します!

引当金(ひきあてきん)という単語は、意外と聞いたことがある人が多いかも知れません。
よく、万一に備えて、引き当てておく、というように言われます。

つまり、何事かに備えておくことが「引き当て」というわけです。
いいかえれば、リスク管理が「引き当て」といえます。
貸倒引当金は、貸借対照表に記載されます。


この記事では、初心者でも「貸倒引当金」が、よくわかるようにやさしく解説していきます。

この記事でわかること

  • 貸倒引当金の基本がわかります
  • 貸倒引当金が適正な期間計算を行うという意味がわかります
  • 貸倒引当金の表示方法がわかります

貸倒引当金は、会計学の観点では、適正な期間期間を計算するという意味があります。
やや難しい論点ですが、さっそく、学んでいきましょう。

貸倒引当金とは何か

貸倒引当金とは、リスクに備える保険のようなものです。

モノやサービスなどの売上によって、得られた売掛金や受取手形を「売上債権」といいます。
つまり、売上債権とは、「代金を受け取る権利」のことです。

当然のことながら、取引先にはさまざまな会社があり、経営状況が良い会社ばかりではありません。
中には、経営が苦しい会社もあるでしょう。
ですから、会社は、売った代金が必ずしも回収されないリスクを抱えています。

このため、このリスクにあらかじめ、「保険」をかけておく必要性があります。
売上債権の未回収リスクに対する保険をかけておく必要があるわけです。
この「債権リスク保険」が「貸倒引当金」です。

貸倒引当金を具体的なケースで考える

【例】  取引先であるA社が倒産した。売上債権100万円があった。

このとき、取引先A社の売上債権100万円に対して、貸倒引当金の設定をしていなければ、
100万円の損失を計上しなければなりません。

しかし、A社の倒産リスク回避のため、あらかじめ、20万円の貸倒引当金を設定していれば、

100万円ー20万円=80万円

80万円の損失計上で済むわけです。
万が一のリスクに備える「保険」、これが、貸倒引当金の基本的な設定理由です。

貸倒引当金と適正な期間計算

さらにもう一つ、貸倒引当金の設定には、大きな目的があります。
それは、正確な期間損益を計算することです。

ここでも具体的にみていきましょう。

たとえば、A社の事業年度が41日~331日とします。

2020121日にA社が、B社へ100,000円の商品を掛けで売り上げました。
202151日にB社が倒産してしまいました。

 

この場合、2020121日に売上が計上されます。
そして、翌期である202151日に損失(貸倒損失)が計上されることになります。

つまり、収益と費用が異なる事業年度で計上されることになります。
会計の基本に、費用と収益は対応させるという「費用収益対応の原則」があります。
費用は収益を得るために支出したお金です。

これが、前述のように事業年度をまたぐと、異なる事業年度に売り上げと費用の計上がされることになります。
すなわち、正確な期間損益の計算ができなくなります。

このような問題を回避するために、あらかじめ貸倒引当金を計上しておけば貸倒損失は発生せず、正確な期間計算が計算されます。
この例でいえば、仮に貸倒引当金を100,000円計上しておきます。
そうすることで、貸倒損失は、貸倒引当金とプラスマイナスで0になるというわけです。

 

貸倒引当金の対象となる債権は、売掛金受取手形などです。

 

【費用収益対応の原則)】についてもっと詳しく知りたい人のために、わかりやすい解説をした記事をご用意しました。

こちらをご参照ください。
参考記事
  ↓
 費用収益対応の原則とは何か

貸倒引当金の会計処理

貸倒引当金の会計処理には、差額補充法と洗替法の2つがあります。
具体的にみていきましょう。

【資料】

決算整理前残高試算表における貸倒引当金残高:10,000円

当期に計上すべき貸倒引当金:30,000円

 

  • 差額補充法の場合

 

差額補充法の場合は(30,000円-10,000円=)20,000円を当期に計上し、
差額を補充する形で貸倒引当金を計上します。

 

借方

金額

貸方

金額

貸倒引当金繰入

20,000

貸倒引当金

20,000

 

  • 洗替法の場合

 

洗替法の場合は、2段階で会計処理を考えます。
まず前期末に計上した貸倒引当金で取り崩されなかった分である10,000円を戻し入れます。

(借)貸倒引当金10,000  (貸)貸倒引当金戻入益10,000

 

これで一度貸倒引当金が0になります。

 

次に貸倒引当金を設定します。
設定すべき貸倒引当金は30,000円なので

(借)貸倒引当金繰入額30,000 (貸)貸倒引当金30,000

これが洗替法です。 

 

借方

金額

貸方

金額

貸倒引当金

貸倒引当金繰入

10,000

30,000

貸倒引当金戻入

貸倒引当金

10,000

30,000

 

差額補充法と洗替法の違いとは、差額補充法は繰入のみが計上されるのに対し、洗替法の場合は戻入と繰入が計上されることです。

しかし、どちらの方法であっても全体での費用の計上金額は変わりません。
よって差額補充法であっても洗替法であっても最終的な利益の金額も変わりません。
しかし、途中の利益の金額は変わってきます。

 

貸倒引当金の表示方法について

勘定科目に損益計算上の表示区分を記載します。

貸倒引当金繰入の表示区分は、販売費及び一般管理費です。
貸倒引当金戻入の表示区分は、特別利益です。

 

・損益計算書抜粋 (差額補充法)

売上総利益 100,000
販売費及び一般管理費 20,000
営業利益 80,000
営業外費用 10,000
経常利益 70,000
特別利益 0
当期純利益 70,000

 

 

・損益計算書抜粋 (洗替法)

売上総利益 100,000
販売費及び一般管理費 30,000
営業利益 70,000
営業外費用 10,000
経常利益 60,000
特別利益 10,000
当期純利益 70,000

 

 

2つの損益計算書の抜粋を見てわかるように、最終的な利益の金額は同じです。
しかし、差額補充法の方が営業利益と経常利益が10,000円多くなります。

貸倒れが発生すると、会社の運営に大きな影響を及ぼします。
受け取れるはずの金額を当てにしていた場合は、資金繰りが悪化し倒産の危機に陥ります。
事前にリスク管理をし、貸倒引当金を準備していても、損失から逃れることはできません。
適正な期間計算を行ったところで、貸し倒れが発生すれば、お金が返ってくるわけではないからです。
日頃から得意先の債権管理を徹底し、回収もれを起こさないように注意することが大切です。

貸倒引当金のまとめ

  • 貸倒引当金は、リスク管理の保険です。
  • 貸倒引当金の計上によって、適正な期間計算を行えます
  • 貸倒引当金の表示方法には、差額補充法と洗替法の2つあります

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